高い茎の頂上につぼみのできたことをかぎつけるかが不思議である。[#地から1字上げ](大正十年十一月、渋柿)
[#改ページ]
*
白い萩《はぎ》がいいという人と、赤い萩がいいという人とが、熱心に永い時間議論をしていた。
これは、実際私が、そばで聞いていたから、確かな事実である。[#地から1字上げ](大正十年十一月、渋柿)
[#改ページ]
*
田端《たばた》の停車場から出て、線路を横ぎる陸橋のほうへと下りて行く坂道がある。
そこの道ばたに、小さなふろしきを一枚しいて、その上にがま口を五つ六つ並べ、そのそばにしゃがんで、何かしきりにしゃべっている男があった。
往来人はおりからまれで、たまに通りかかる人も、だれ一人、この商人を見向いて見ようとはしなかった。
それでも、この男は、あたかも自分の前に少なくも五、六人の顧客を控えてでもいるような意気込みでしゃべっていた。
北西の風は道路の砂塵《さじん》をこの簡単な「店」の上にまともに吹きつけていた。
この男の心持ちを想像しようとしてみたができなかった。
しかし、めったに人の評価してくれない、あるい
前へ
次へ
全160ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング