方では、古いよごれた帽子をかぶってうれしがっている人がある。[#地から1字上げ](大正十年十月、渋柿)
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昔、ロンドン塔でライオンを飼っていた。
十四世紀ごろの記録によると、ライオンの一日の食料その他の費用が六ペンスであった。
そうして囚人一人前の費用はというと、その六分の一の一ペニーであったそうである。
今の上野動物園のライオンと、深川の細民との比較がどうなっているか知りたいものである。[#地から1字上げ](大正十年十月、渋柿)
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コスモスという草は、一度植えると、それから後数年間は、毎年ひとりで生えて来る。
今年も三、四本出た。
延び延びて、私の脊丈《せた》けほどに延びたが、いっこうにまだ花が出そうにも見えない。
今朝行って見ると、枝の尖端《せんたん》に蟻《あり》が二、三|疋《びき》ずつついていて、何かしら仕事をしている。
よく見ると、なんだか、つぼみらしいものが少し見えるようである。
コスモスの高さは蟻の身長の数百倍である。
人間に対する数千尺に当たるわけである。
どうして蟻がこの高い
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