》の徘徊《はいかい》には不便である。第三には、この風呂屋ができてから門前に近く新たに消火栓が設けられた。もっとも、これは近くに高官の邸宅があるおかげかもしれない。
[#改ページ]

       *

 睡蓮《すいれん》の花は昔から知っている。しかし、この花が朝開いて午後に睡《ねむ》るということは、今年自分の家でつくってみて始めて知った。睡蓮という名の所由がやっとわかったのである。水蓮などという当て字をかく人のあるのを見ると、これは自分だけの迂闊《うかつ》でもないらしい。人間ののんきさかげんがこんなことからもわかる。しかしまた人間の世智辛さがこれでわかる、とも言われるであろう。
[#改ページ]

       *

 三原山の投身者の記事が今日新聞紙上に跡を絶たない。よく聞いてみると、浅間山にもかなり多数の投身者があるそうであるが、このほうは新聞に出ない。ジャーナリズムという現象の一例である。
[#改ページ]

       *

「陸相官邸にて割腹」という大きな見出しの新聞記事がある。陸相が割腹したのかと思うと、陸相の官邸でだれかが割腹したのである。日本語の不完全を巧みに利用したジャ
前へ 次へ
全160ページ中104ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング