この柔らかい絹蒲団というやつはいくら下からはね上げておいてもちょうど飴《あめ》か餅《もち》かのようにじりじりと垂れ落ちて来て、すっかりからだを押えつけあらゆるすきまを埋めてしまう。それでちょっとでも身動きしようとするとこの飴が痛むからだには無限の抵抗となって運動を阻止する。蠅取《はえと》り紙《がみ》にかかった蠅の気持ちはこんなものかという気がする。
天網のごとく、夢魔のごとく、運命の神のごとく恐ろしいものは絹蒲団である。[#地から1字上げ](昭和十年十一月、渋柿)
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短章 その二
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美人と言えば女に限るようである。美醜は男をスペシファイする属性にならぬと見える。甘い辛いが絵の具の区別に役立たぬように。
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宅《うち》の前に風呂屋ができて、いろいろな迷惑を感ずることがある。しかし、どんな悪いことにでも何かしら善いことがある。第一には、宅へ始めて尋ねて来る人にはこの風呂屋の高い煙突を目当てにして来るように教えるとわかりが早い。それから、第二には夜の門前が明るくなって泥坊《どろぼう
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