しら細長いものがかすかにさわるようなかゆみを感じた。女の髪の毛が一本からみついているらしい。右の手の指でつまんで棄てようとするとそれが右の腕にへばりつく。へばりついた所が海月《くらげ》の糸にでもさわったように痛がゆくなる。浴室の弱い電燈の光に眼鏡なしの老眼では毛筋がよく見えないだけにいっそう始末が悪い。あせればあせるほど執念深くからだのどこかにへばりついて離れない。そうしてそれがさわった所がみんなかゆくなる。ようやく離れたあとでもからだじゅうがかゆいような気がした。
 風呂の中の女の髪は運命よりも恐ろしい。[#地から1字上げ](昭和十年九月、渋柿)
[#改ページ]

   曙町より(二十七)


 子供のときから夜具といえば手織り木綿《もめん》の蒲団《ふとん》にあまり柔らかくない綿のはいったのに馴らされて来たせいか今でもあまり上等の絹夜具はどうもからだに適しない、それでなるべくごつごつした紬《つむぎ》か何かに少し堅く綿をつめたのを掛け蒲団にしている。
 今度からだが痛む病気になって臥床《がしょう》したまま来客に接するのにあまり不体裁だというので絹の柔らかいのを用いることにした。ところが
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