いでもない。そういう伴奏としてはしかしそれぞれの助演者もそれ相当の効果を見せてはいるようである。
[#地から3字上げ](昭和十年五月、映画評論)

     十五 乙女心三人姉妹

 川端康成《かわばたやすなり》の原著は読んだことはないが、この映画の話の筋はきわめて単純なもので、ちょっとした刃傷事件《にんじょうじけん》もあるが、そういう部分はむしろはなはだ不出来でありまた話の結末もいっこう収まりがついていない。しかしこの映画を一種の純粋な情調映画と見なし「俳諧的《はいかいてき》映画」の方向への第一歩の試みとして評価するとすれば相当に見どころのある映画だと思われる。観音の境内や第六区の路地や松屋《まつや》の屋上や隅田河畔《すみだかはん》のプロムナードや一銭蒸汽の甲板やそうした背景の前に数人の浅草娘《あさくさむすめ》を点出して淡くはかない夢のような情調をただよわせようという企図だとすれば、ある程度までは成効しているようである。ただもう一息という肝心のところをいつでも中途半端で通り抜けてしまうのが物足りなく思われる。たとえば最後の場面でお染《そめ》が姉夫婦を見送ってから急に傷の痛みを感じてベ
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