映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1−13−24])
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)自分の嗜好《しこう》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)「|これが運命というものじゃ《セ・ラ・デスティネー》」

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和十年二月、セルパン)
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     一 商船テナシティ

 このジュリアン・デュヴィヴィエの映画は近ごろ見たうちでは最もよいと思ったものの一つである。何よりも、フランス映画らしい、あくの抜けたさわやかさが自分の嗜好《しこう》に訴えて来る。
 汽車でアーヴルに着いてすっかり港町の気分に包まれる、あの場面のいろいろな音色をもった汽笛の音、起重機の鎖の音などの配列が実によくできていて、ほんとうに波止場《はとば》に寄せる潮のにおいをかぐような気持ちを起こさせる。発声映画の精髄をつかんだものだという気がする。これと同じようなことをドイツ人日本人がやればまずたいていは失敗するから妙である。
 二人の若者の出帆を見送ったイドウ親爺《おやじ》とテレーズと
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