主人が勝ってそうしてすまして相手の銭をさらって、さて悠々《ゆうゆう》と強敵と手詰めの談判に出かけるところにはちょっとした「俳諧《はいかい》」があるように思われた。
 最後に、勲功によって授爵される場面で、尊貴の膝下《しっか》にひざまずいて引き下がって来てから、老妻に、「どうも少しひざまずき方が間違ったようだよ」と耳語しながら、二人でふいと笑いだすところがある。あすこにもやはり一種の俳味があり、そうしていかにも老夫婦らしいさびた情味があってわれわれのような年寄りの観客にはなんとなくおもしろい。
 しかし映画芸術という立場から見るとむしろ平凡なものかもしれないと思われた。

     八 ベンガルの槍騎兵

 変わった熱帯の背景とおおぜいの騎兵を使った大がかりな映画である。物語の筋はむしろ簡単であるが、途中に插入《そうにゅう》されたいろいろのエピソードで「映画的内容」がかなり豊富にされているのに気がつく。たとえば兵営の浴室と隣の休憩室との間におけるカメラの往復によって映出される三人の士官の罪のない仲のいいいさかいなどでも、話の筋にはたいした直接の関係がないようであるが、これがあるので、後に
前へ 次へ
全37ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング