この三人が敵の牢屋《ろうや》に入れられてからのクライマックスがちゃんと生きて来るように思われる。事件的には縁がない代わりに心理的の伏線になるのである。拷問の後にほうり込まれた牢獄《ろうごく》の中で眼前に迫る生死の境に臨んでいながらばかげた油虫の競走をやらせたりするのでも決してむだな插話《そうわ》でなくて、この活劇を生かす上においてきわめて重要な「俳諧《はいかい》」であると思われる。最後のトニカを響かせる準備の導音のような意味もあるらしい。
 配役の選択がうまい。鈍重なスコッチとスマートなロンドン子と神経質なお坊っちゃんとの対照が三人の俳優で適当に代表されている。対話のユーモアやアイロニーが充分にわからないのは残念であるが、わかるところだけでもずいぶんおもしろい。新入りの二人を出迎えに行った先輩のスコッチが一人をつかまえて「お前がストーンか」と聞くと「おれはフォーサイスだ」と答える。「それじゃあれがストーンだ」というと、「驚くべき推理の力だな」と冷やかす。
 牢屋でフォーサイスが敵将につかみかかって従者に打ちのめされる。敵将が「勇気には知恵が伴なわなければだめだよ」といって得意になる。敵 
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