うな旧時代のものにはどうもあまり好感の持てないタイプである。しかし、とにかくこうした映画で日常教育されている日本現代の青年男女の趣味|好尚《こうしょう》は次第に変遷して行って結局われわれの想像できないような方向に推移するに相違ない。考えてみると映画製作者というものは恐ろしい「魔法の杖《つえ》」の持ち主である。
七 ロスチャイルド
この映画はなにしろ取り扱っている物語の背景の大きさというハンディキャップを持っている。その上に主役となる老優の渋くてこなれた演技で急所急所を引きしめて行くから、おそらくあらゆる階級の人が見て相当楽しめる映画であろうと思われる。しかしユダヤ人というものの概念のはなはだ希薄な日本人には、おそらくこの映画の本来のねらいどころは感ぜられないであろうし、あるいはかえってそのおかげで日本人にはいやみや臭味を感ずることなしにこの映画のいいところだけを享楽することができるかもしれない。
主人公の老富豪が取引所の柱の陰に立って乾坤一擲《けんこんいってき》の大賭博《だいとばく》を進行させている最中に、従僕相手に五十銭玉一つのかけをするくだりがある。そのかけにも老
前へ
次へ
全37ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング