ないだけが彼らの弱みではないかと思われる。協同した暴力の前には知恵などはなんの役にも立たないことは人間の歴史が眼前に証明している。
犀《さい》というものがどうにも不格好なものである。しかしどうしてこれが他の多くの動物よりもより多く「不格好」という形容詞に対する特権を享有することになるのか。
人間の使ういろいろな器具器械でも一目見てなんとなくいい格好をしたものはたいてい使ってぐあいがよい。物理学実験に使われる精密器械でさえも設計のまずい使ってぐあいの悪いようなのはどことなく見た格好が悪いというのが自分の年来の経験である。
動物でも、なんとなしに不格好に見えるのはやはり現在の地球上に支配する環境の中で生活するのに不便なようにできているのではないかと思われてくる。犀などがだんだんに人間に狩り尽くされて絶滅しかけているという事実はたしかに彼らが現世界に生存するに不利益な条件を備えているためであろう。
過去のある時代には犀のようなものが時を得顔に横行したこともあったのである。その時代の環境のいかなる要素が彼らの生存に有利であったかがおもしろい問題である。
今から何万年の後に地球上の物理
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