く。堰堤《えんてい》工事の起重機や汽車の運動は、見ているとめまいを起こすほどであるが、しかしその編集法はやはり静的で動的でない。
 冒頭のドニエプル河畔の茫漠《ぼうばく》たる風景も静的である。こういう自然の中に生まれた国民のまねを日本人がしようとするのはほんとうに無意義なことである。
 この映画は文部省あたりの思想善導映画として使われうる可能性をもっている。これは皮肉ではない。
[#地から3字上げ](昭和九年六月、キネマ旬報)

     六 バンジャ

 映画「バンジャ」を見た。従来の猛獣映画に比べて多少の特色はあるようである。見えすいた芝居が比較的少ないので、見ていて気持ちがよく、退屈しなくてすむ。
 象が人間に使われて実によく命令を聞き、見かけに似合わず小まめに仕事をする。あれほど利口なこの動物がどうして人間の無力を見抜いてあばれださないか不思議に思われて来る。人間は知恵でこの動物を気ままにしていると思ってうぬぼれている。しかしこれらの象が本気であばれだしたら大概の人間の知恵では到底どうにもならなくなるのではないか。象が人間に負けているのは知恵のせいではない。協力ということができ
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