立ち上がった姿は、肩をそびやかし肱《ひじ》を張ったボクサーの身構えそっくりである。そうして絶えずその立ち上がった半身を左右にねじ曲げて敵のすきをねらう身ぶりまでが人間そのままである。これはもちろん人間のまねをしているのではない、人間も蛇《へび》のまねをしているのではない。ただ普遍な適用性をもつ力学が無意識に合目的に応用されているだけであろうと思われる。「自然の設計」に機械的原理の応用されている一例としておもしろい見ものである。
ガラガラ蛇が横ばいをするのも奇妙である。普通の蛇ではこんな芸当はできないのではないかと思う。これができるとできないとで決闘の際に大きなハンディキャップの開きがありそうである。運動の「自由度」が一つ増すからである。
ペリカンのひながよちよち歩いては転倒する光景は滑稽《こっけい》でもあり可憐《かれん》でもある。鳥でも獣でも人間でも子供にはやはり子供らしい共通の動作のあることが、いつもこの種類の映画で観察される。たよりない幼いものに対する愛憐《あいれん》の情の源泉がやはり本能的なものだということが、よくのみ込めるような気がする。
こういう映画はいくらあっても決し
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