ひょう》や大蛇《だいじゃ》をつかまえる場面もある。網というものは上着以上にどうにもしようのない動物の強敵であるらしい。全く運命の網である。天網という言葉は実にうまい言葉を考えついたものである。押し破ろうとして一方を押せば、押したほうは引っ込んで反対側が自分をしめつける。
 大蛇が箱から逃げ出す場面で猿《さる》や熊《くま》の恐怖した顔のクローズアップを見せる。あの顔がよくできている。これに反して傘蛇《からかさへび》に襲われた人間の芝居がかりの表情はわざとらしくておかしく、この映画の中でいちばんまずい場面である。わが国の映画界のえらいスター諸君もちとあの猿や熊の顔を見学し研究するといい。

     七 漫画の犬

 このごろ見た漫画映画の内でおもしろかったのはミッキーマウスのシリーズで「ワン公大あばれ」(プレイフル・プルートー)と称するものである。その中で覚えず笑い出してしまった最も愉快な場面は、犬が蠅取《はえと》り紙に悩まされる動作の写真的描写である。鼻の頭にくっついたのを吹き飛ばそうとするところは少し人間臭いが、尻《しり》に膠着《こうちゃく》したのを取ろうとしてきりきり舞いをするあた
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