て人の虜《とりこ》になり生き恥をさらす人は実に数え切れないほど多数である。「めがね猿」ばかりを笑うわけにはゆかないのである。
大蛇《だいじゃ》が豚を一匹丸のみにして寝ている。「満腹」という言語では不十分である。三百パーセントか四百パーセントの満腹である。からだの直径がどう見ても三四倍になっている。他の動物の組織でこんなに伸長されてそれで破裂しないものがあろうとはちょっと思われないようである。もっとも胎生動物の母胎の伸縮も同様な例としてあげられるかもしれないが、しかしこの蛇《へび》のように僅少《きんしょう》な時間にこんなに自由に伸びるのは全く珍しいと言わなければなるまい。これにはきっと特別な細胞や繊維の特異性があるに相違ないが、ちょっとした動物学の書物などには、こうしたいちばんわれらの知りたいようなおもしろいことが書いてないようである。
主人公のバック氏が傘蛇《からかさへび》に襲われ上着を脱いでかぶせて取り押える場面がある。この場合は柔よく柔を制すとでもいうべきである。さすがの蛇《へび》もぐにゃぐにゃした上着ではちょっとどうしていいか見当がつかないであろう。この映画ではまた金網で豹《
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