として編集の技巧から来る呼吸のおもしろさであると思う。たとえば拍手している多数の手がスクリーンの上に対角線状に並んで映る。それ自身としてはくだらないものである。これが插入《そうにゅう》の呼吸で実に不思議なおもしろいものに見えるのである。それからもう一つのおもしろみの原因は登場するキャストの選定によって現わされた人間の定型の真実さにある。たとえば友だちの名をかたってパリへ出かけるいたずら者が、自分の引き立て役に純ドイツ型の椋鳥《むくどり》を連れて行く、その椋鳥のタイプとか、パリ遊覧自動車の運転手とか案内者とか、ベデカと[#「ベデカと」は底本では「ペデカと」]首っ引きで、シャンゼリゼーをシャンセライズと発音する英国老人とかいうのがそれである。オベリスクやエッフェル塔が空中でとんぼ返りをしたりする滑稽《こっけい》でも、要領がよいのでくすぐりに落ちずして自然に人のあごを解くようなところがある。
「制服の処女」とこの映画とを比べても実によくドイツ人の映画とフランス人の映画との対照がわかるような気がするのである。映画人としてもドイツ人はやはり「あたまが悪く」て、その結果として物事を理屈で押して行く
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