おいてはほとんど何もちがわないのである。
ソビエト映画「大地」もいろいろの意味において私には相当おもしろいものであった。もっともソビエトの思想に充分なる理解を持たない自分にとってはいわゆるソビエト映画としてこの映画の価値がどうかというようなことはもちろんわかるはずはない。ただのありふれの日本人としての目で見て来ただけの感想しか持ち合わせていない。
この映画でいちばん自分の注意を引いたのはいろいろのシーンの静的画面の美しさである。実に美しい活人画《タブローヴィーヴァン》がそれからそれと現われて来る。それがちょうど俳諧連句《はいかいれんく》の句々の連珠のようなモンタージュによって次々に展開進行して行くのである。開巻第一に現われる風の草原の一シーンから実に世にも美しいものである。風にゆれる野の草がさながら炎のように揺れて前方の小高い丘の丸山のほうへなびいて行く、その行く手の空には一団の綿雲が隆々と勢いよく盛り上がっている。あたかも沸き上がり燃え上がる大地の精気が空へ空へと集注して天上ワルハラの殿堂に流れ込んでいるような感じを与える。同じようではあるが「全線」の巻頭に現われるあの平野とそ
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