映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1−13−21])
寺田寅彦

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)舷側《げんそく》で押しくずされる

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|陋巷《ろうこう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和五年十一―十二月、東京帝国大学新聞)
−−

       一

「バード南極探険」は近ごろ見た映画の内でおもしろいものの一つであった。これまでにも他の探険隊のとった写真やその記事などをいろいろ見てかなりまでは極地の風物の概念を得たつもりでいたのだが、しかし活動映画として映しだされたのを見ると、ただの静映像で見ただけでは到底想像のできなかったいろいろの真実をありありと見せられ体験させられるのである。たとえば流氷のようなものでも舷側《げんそく》で押しくずされるぐあいや、海馬《せいうち》が穴から顔をだす様子などから、その氷塊の堅さや重さや厚さなどが、ほとんど感覚的に直観される。雪原の割れ目などでも、橇《そり》で乗り越して行く時にくずれるさまなどから、その割れ目の状況や雪
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