の固まりぐあいなどが如実に看取されるのである。
 食糧品を両側に高く積み上げた雪中の廊下の光景などもおもしろい。食糧箱の表面は一面に柔らかい凝霜でおおわれていて、見ただけではどれがなんだかわからないが、糧食係の男は造作《ぞうさ》もなく目的の箱を見いだして、表面の凝霜をかきのけてからふたを開き中味を取り出す。この廊下一面の凝霜の少なくも一部分は、隊員四十余名の口から吐きだされた水蒸気がこの廊下へ拡散して来て徐々に凝結したものではないかと想像してみた。そう想像することによって隊員の忍苦の長い時間的経過を味わうことができる。
 バードが極飛行から無事に屯営《とんえい》に帰って来たのを皆が狂喜して迎え、機上から人々の肩の上にかつぎ上げて連れてくる。その時バードの愛犬が主人に飛びつこう飛びつこうとするのだが人々にさえぎられて近寄れず不平でむやみに駆け回っているがだれも問題にしてくれない。これもおもしろい場面である。それからバードが宿舎にはいってくるとたれかが熱いコーヒー(?)を一杯持ってくる。それを一口飲んだ時の頬《ほお》の筋肉の動きにちょっと説明のできない真実味があると思った。
 病犬を射殺す
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