ルリーン」に映出される本物の機械の美しさは、実に見ていて胸がすくようである。同じ意味でソビエト映画「トルクシヴ」に現われる紡績機械もおもしろい。そうして「自然の破壊」(Blasting Excavator)における大仕掛けの機械架構が、どうも物足りなく思われるのである。
「トルクシヴ」もかなりおもしろいと思って見物した。いわゆるモンタージュの芸当をあまりにわざとらしく感じさせるようなところもある。たとえば紡績機械の流動のリズムと、雪解けの渓流《けいりゅう》のそれと、またもう一つ綿羊の大群の同じ流れとの交互映出のごときも、いくらかそうである。しかしこういう流動に、さらに貨物車の影がレールの上を走るところなどを重出して、結局何かしら莫大《ばくだい》な運動量を持ったある物が加速的にその運動量を増加しつつ、あの茫漠《ぼうばく》たるアジア大陸の荒野の上を次第に南に向かって進んでいるという感じがかなりまで強く打ちだされていることは充分に認められる。
 これに比べて「アジアのあらし」は全体として見ると自分にはどうもあまりおもしろくなかった。これは自分が「赤いめがね」を持ち合わせないせいかもしれない。
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