一度は光琳《こうりん》が生まれ、芭蕉《ばしょう》が現われ、歌麿《うたまろ》が出たことはたしかである。それで、映画の世界にもいつかはまたそうした人が出るであろうという気長い希望をいだいてそうしてそれまでは与えられたる「荒木又右衛門《あらきまたえもん》」を、また「街《まち》のルンペン」をその与えられたる限りにおいて観賞することに努力すべきであろう。
[#地から3字上げ](昭和六年六月、時事新報)
四
「アフリカは語る」を一見した。この種の実写映画は何度同じようなものを見せられても見るたびに新しい興味を呼びさまされるのであるが、今度のはそれが発声映画であるだけにいっそう実証的の興味を増しているようである。
いちばん珍しいのは空をおおうて飛翔《ひしょう》する蝗《いなご》の大群である。これは写真としてはリリュストラシオンのさし絵で見た事はあったが、これが映画になったのはおそらく今度が始めてであり、ことに発声映画としてはこれがレコードであるにちがいない。蝗《いなご》の羽音がどれだけ忠実に再現されているかは明らかでないがともかくも不思議な音である。聞いたことのないものには想像する
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