調しているそうである。
エイゼンシュテインがいかなる程度にわが国の俳諧を理解してこう言っているかはわかりかねるが、日本人の目から見ても最もすぐれたモンタージュ芸術の典型として推すべきものはいわゆる俳諧連句そのものである。
ヤニングスとディートリヒの「青い天使」「嘆きの天使」というのを見た。同じ監督がこのあとに作った「モロッコ」を見たあとでこれを見たことは一つのおもしろい経験であった。著名な科学者の一代の大論文を読んで感心したあとで、その人のその論文を書くまでの道筋を逆にたどってそれまでのその人の著述を順々に古いほうへと読んで行くと、最初に感心させられたものが、きわめて平凡なあたりまえの落ち着き所であるとしか思えなくなって来る。これとは事がらはちがうが多少似た関係がこの二つの映画の間に見いだされる。すなわち後の「モロッコ」において純化され洗練されて現われているものが「青い天使」ではまだいろいろの過去の塵埃《じんあい》の中にちらばって現われているような気がする。
最初にハンブルグの一|陋巷《ろうこう》の屋根が現われ鵞鳥《がちょう》の鳴き声が聞こえ、やがて、それらの鵞鳥を荷車へ積み込む
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