って平板に見えやすくなる。これは西洋画をけいこした人のいずれもが経験したことであろう。
しからば有色映画は全然見込みのないものであるかというと、そうは断言できない。もしも将来天才的監督によって適当なる色彩的モンタージュの方法が案出され、明暗を殺さずにそれを生かすような色彩を駆使して、これを音響と対位的に編成することができればその結果はあるいは大いに見るべきものであるかもしれない。
色彩のモンタージュはいかにすべきかについてはやはり東洋画ことに宗達《そうたつ》光琳《こうりん》の絵や浮世絵は参考になるであろう。俳諧連句《はいかいれんく》もまたかなりの参考資料を提供するであろう。たとえば七部集炭俵の中にある「雪の松おれ口みればなお寒し」「日の出るまえの赤き冬空」「下肴《げざかな》を一舟浜に打ち明けて」の三連などは色彩的にもかなりおもしろいものである。ともかくも一つ一つの画面にその基調となるべき色彩的な中心映像を確定しそれを生かすためにその周囲の色彩を殺してしまうという、色彩的カッティングを行ない、そうして、その中心的な色彩をモンタージュ的な連結推移のリズムによって進行させて行かなければな
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