や水や森や山の模糊《もこ》たる雰囲気《ふんいき》が用いられる。ある場合には紙面の上下に二つの場面の終わりと始めとが雲煙を隔ててオーバーラップの形で現われることもあるであろう。今手近に適切な実例をあげることはできないが、おそらくこれらの絵巻物の中から「対照」「譬喩《ひゆ》」「平行」「同時」等いろいろのモンタージュ手法に類するものを拾い出すことも可能であろうと思われる。
映画における字幕サブタイトルに相当するものすら、ある絵巻物には書き込まれてあるのも興味あることである。
絵巻物の一画面は言わば静的である。その静的な一画面から次の画面への推移のリズムによって始めてそこに動的な効果を生じる。しかし映画の場合でもたとえばドブジェンコの「大地」などはほとんど静的な画面のモンタージュが多い。有名な「ポチョムキン」の市街砲撃の場面で、石のライオンが立ち上がって哮吼《こうこう》するのでも、実は三か所で撮《と》った三つの石のライオンの組み合わせに過ぎないということである。
このように静的なものの律動的配合によってさえ非常に動的な陪音を生じうるのであるから、動的なものの結合からさらに高次元的に動的な
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