ーヴとしたモンタージュの系列である。
こういう意味において映画というものの一つのプロトタイプとでも言わるべきものは絵巻物の類である。これは空間的であるのみならず、またいくぶん時間的である点においていっそう映画に接近するのである。たとえば道成寺縁起《どうじょうじえんぎ》という一つのテーマがあり、それの内容となるべきひとくさりのグロテスクでエロチックでまた宗教的なストーリーがある。絵巻物の画家は、そのストーリーから一つのシナリオを作らなければならない。まずいかにしてヒーローとヒロインを「紹介」すべきか、全編をいくつの場面に分割すべきか、一つ一つの場面にいかなる造型的視覚的素材を用ゆべきかを考えなければならない。すなわち物語を「モンタージュ画像《ビルダー》」の言葉に翻訳しなければならない。この際における創作的過程は映画監督のそれとかなりまで類似した点をもつであろう。道成寺の場合にはまた、初期の映画で常套的《じょうとうてき》に行なわれた「追っ駆け」を基調とする構成の趣があると言われよう。
映画の場合に甲の場面から次の乙景に移る際にいわゆる溶暗溶明を用いることがある。絵巻物ではそのかわりに雲
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