ーマがあってこそ一瓶《ひとかめ》の花が生け上げられるのである。そのテーマを表現すべき「言葉」として花と瓶とが選ばれる。花は剪刀《せんとう》でカットされた後に空間的モンタージュを受ける。この際にたとえば青竹送り筒にささげと女郎花《おみなえし》と桔梗《ききょう》を生けるとして、これらの材料の空間的モンタージュによって、これらの材料の一つ一つが単独に表現する心像とは別に、これらのものを対合させることによってそこに全く別なものが生じて来る。エイゼンシュテインはこれを二つのものの単なる組み合わせあるいは堆積《たいせき》すなわち彼のいわゆる叙事的な原理と見る代わりに、二つのものの衝突の中に観念を生み出し爆発させる力学的原理を認めようとしたようである。しかしわれわれのような観賞者の立場からすれば配合調和相生というのも、対立衝突|相剋《そうこく》というのも、作者の主観以外には現象としての本質的な差を認めなくても結果においてたいした差はないようである。要は結局エイゼンシュテインが視覚的|陪音《オヴァートーン》と呼び、あるいはむしろ視覚的|結合音《コンビネーショントーン》と呼ばるべきものを生み出すにあるの
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