教わったり、また病気であるかないか分らないようなからだの工合を話して意見を聞くようなことが、あたかも鉛筆一本、ハンケチ一枚買うように気軽に出来れば便利である。
 家を建てようと思う人が自分の素人設計図を見せてまずい所を直してもらったり、ちょっとした器械でも買う場合に目的を話して適当なものを選定してもらわれれば好都合である。メロンを作ってみたいと思う人が自分の畑の適否を相談し、栽培法の要領を教われれば軽便である。
 もう少し実用を離れた知識でもわれわれは時に自分の畑違いの事で一通りのことを心得ておきたい場合がある。書物を読めばいいとしたところで第一どういう本を読んでいいのかそれが分らない。そういう場合にもし百貨店で買物の節に軽便安直な知識を購入出来れば工合がいい。たとえば相対性原理とはどんな事か、マルキシズムとは何か、バロック芸術とは何、ベースボールとは何、ジャズとは何、そういうことが望みのままに早分りがすれば甚だ便利であり、また時代に適応する所以《ゆえん》であるかもしれない。
 現代に隆盛を極めている各方面の通俗的な雑誌はこういう安価で軽便な皮相的な知識を汽車弁当のおかずのごとく詰め込
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