である。そうして同時に博物館であり、百科辞典であり、また一種のユニヴァーシティであるのである。そうしてそれがそうであることによって、それは現代世相の索引でありまた縮図ともなっているのである。
 食堂や写真部はもちろん、理髪店、ツーリスト・ビュロー、何でもある。近頃郵便局の出来たところもある。職業紹介所と結婚媒介所はいまだないようであるが、そのうちに出来てもよさそうなものである。今でも見合いのランデヴーには毎日のように利用されているくらいである。球戯場などもあっても差支《さしつか》えはない。
 しかし百貨店の可能性がまだどれほど残されているかは未知数である。その一つの可能性として考えられるものは、軽便で安価な「知識の即売」である。法医工文理農あらゆる学問の小売部を設けることである。
 親類に民事上の訴訟問題でも起りかかった場合に、われわれはある具体的の法律上の知識の概要を得ておきたくなる。そういう時に、もし百貨店で買物をした節に十分か十五分の時間と二円か三円の金を費やして要領を得ることが出来れば便利である。
 わざわざ医者にかかるほどでもないちょっとしたできものを診てもらって適当な療法を
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