横顔の描写が単に科学記事だけに限られているのならば幸いであるが、こういうのを見るたびに、われわれ読者は、同じような歪曲《わいきょく》が政治外交経済あらゆる方面の記事にも多少ちがった程度で現われているであろうと想像しないわけには行かないのである。有限な型の中のどれかにすべてのものを押し込もうとすればどうしても少々押し曲げなければうまくはまるはずはないのである。ただ社会人事に関する限り定型のストックが科学記事の場合とは比較にならぬほど豊富だからたいていの場合にはそれほどひどく曲げなくても収まるようなちゃんとした型が見つかりやすいのに、科学方面はあまりの「かたなし」であるから事実の顔はだらしなくくずれてしまうのであろうと思われる。
 新聞の科学記事でいちばん科学者を辟易《へきえき》させるものはいわゆる「世界的大発見」や「大発明」の記事である。十年も前に発見されている事実がきのう発見されたことになったり、至るところで以前から使い古されているものがおととい発明されたりしたことになったりして現われるのはきわめて普通なことである。どうしてそういう間違いが起こるかについては、たとえば十年前に発見された
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