に跳躍する翻筋斗《とんぼがえり》の一景などは見るだけで老人を若返らせるようなものである。見るものは芸ではなくして活きる力である。
 踊る女の髪の毛のいろいろまちまちなのが当り前だがわれわれ日本人の眼には不思議である。近頃は日本人の顔がだんだんに西洋人に似てくるようで、銀座などを歩いているとあちらの映画スターに似たような顔つきをした男女を見かけることも珍しくないがただ髪の毛だけは、当り前のことだが皆申し合せたように真黒である。しかし、日本人の日常生活がだんだん西洋人のに近くなって一世紀二世紀と経つうちには髪の色もだんだん明るくなって行かないとも限らないであろう。
 呼び物の「金色の女」はなるほどどうしても血の通っている人間とは思われなくて、金属の彫像が動いているとしか思われない。あんなものを全身に塗っては健康によくないであろうと思うとあまり好い気持はしなかった。塗料が舞台の板に附くかと思って気をつけて二階から見ていたがそんな風には見えなかった。
 どこかの山中の嶮崖《けんがい》を通る鉄道線路の夜景を見せ、最後に機関車が観客席に向かって驀進《ばくしん》するという甚だ物々しいふれだしのあった
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