った二十余年の今日の嵐の東京でアメリカ名物マーカス・ショーを見ようというのである。
 この興行には添えものの映画を別にして正味二、三時間の間に三十に近い「景」が展開される。一景平均五分程度という急速なテンポで休止なしに次から次へと演ぜられる舞台や茶番や力技は、それ自身にはほとんど何の意味もないようなものでありながらともかくも観客をおしまいまであまり退屈させないで引きずって行くから不思議なものである。
 昔見たベルリンやパリのレビューの印象に比べてこのアメリカのレビューの著しくちがうと思った点は、この現在のアメリカのものの方が一層徹底的に無意味で、そのために却ってさっぱりしていて嫌味が少ないことと、それからもう一つは優美とか典雅とかいう古典的要素の一切を蹴飛ばしてしまって、旺盛な生活力を一杯に舞台の上に横溢《おういつ》させていることとであろうと思われた。ある意味では野蛮でブルータルであると同時に一方ではまた新鮮で明朗で逞《たくま》しい美しさがないとは云われない。
 踊る人間の肉体の立派さは神の作った芸術でこれだけはどうにもしようがない。特にあのアラビア人のような名前のついた一団の自由自在
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