、この二つのものを別々でなく同時に作用させると両方の作用が単に加算的《アディチブ》でなくてそれ以上に有効だということである。云わば一と一とで二以上になるというのである。お互いにセンシタイズするような作用をするらしい。
 人間が知識を摂取する場合でもよく似たことがある。自分に最も必要な知識は頭にしみやすく、あまり役に立たぬようなものは一度呑込んでもすぐに排出し忘れてしまう傾向がある。また甲乙二つの知識が単独には大した役に立たないのが二つ一処《いっしょ》になったおかげで大変な役に立ったという例はいくらでもある。
 そういう考えからすれば、あまり純粋な化学薬品のような知識を少数に授けるよりは、草根木皮や総菜のような調剤と献立を用いることもまた甚だ必要なことと思われて来る。つまりここで謂《い》うレビュー式教育も甚だ結構だということになるのである。
 そうかと云ってまた無理やりに嫌がる煎薬《せんやく》を口を割って押し込めば利く薬でももどしてしまい、まずい総菜を強《し》いるのでは結局胃を悪くし食慾を無くしてしまうのがおちである。下手なレビューを朝から夜中まで幕なしに見せられるようなものであろうと思
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