立するのである。
 物理のような基礎科学の教科書が根本の物理そのものはろくに教えないで瑣末《さまつ》な枝葉の物理器械や工学機械のカタログを暗記させるようなものでは困ると思う。レビュー式でも本当に面白いレビューならまだしも、さっぱり面白くない百景を並べたのでは全く生徒が可愛相《かわいそう》である。結局は物理学そのものが嫌いになるだけであろう。
 レビュー見学のノートから脱線してつい平生胸に溜まっていた教科書の不平をこぼしてしまったが、こういう脱線もまた一つのレビュー的随感録の一様式中の一景として読者の寛容を願いたいと思う。
 政府の統制の下に組織された教育のプログラムがレビュー式であるくらいだから、民間の営利機関の手に成る大衆向けの教育機関であるところの雑誌や新聞のレビュー式ないしは汽車弁当式であることは当然である。たまたまレビュー式でない雑誌はあるが、そういうのは特別な関係の誌友類似の予約講読者のあるものに限るので、一般大衆を相手にするものは出来るだけレビュー式編輯法を採らなければ経営が困難だということである。誠に尤もな次第と思われる。
 一体レビュー式ということには何もそれ自身に悪い
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