トンからマウント・ウェザーの気象台へ見学に出かけた田舎廻りのがたがた汽車はアメリカとは思われない旧式の煤《すす》けた小さな客車であったが、その客車が二つの仕切りに区分されていて、広い方の入口には「ホワイト」、狭い方には「カラード」という表札が打ってある。自分は少し考え込んだが、どう考えてもホワイトではないからと思ってカラードの方に這入《はい》った、そうして真黒なレデーの一人と相乗りで淋しい田舎の果へと揺られて行った。
 アメリカでもプロフェッサー達はみんな品のいい、そうしてヨーロッパの国々の多くのプロフェッサーよりもさっぱりした感じの人が多かったが、これらの先生達は誰もチューインガムを噛んではいなかった。
 ボストンで、とあるチョプスイ屋へはいって夕飯を喰ったら、そこに日本人のボーイが居て馴れ馴れしく話しかけた。帰りにチップをいつもより奮発して出したら突返された。そうして、自分はここではボーイをしているが日本へ帰れば相当な家もあって、相当な顔のある身分であると云ってひどく腹を立てた。すっかり憂鬱になって、そこを出ると、うしろから来たアメリカ人が「ビグ、ジャーップ」と云って唾をはいた。見
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