。アメリカ人にしても特別に長い方に属するかと思われるこの税関吏の顔は、チューインガムを歯と歯の間に引延ばすアクションのために一層長く見えるのであった。
ホボケンという場所の名までが、何だか如何にも人を馬鹿にしたような名だと思われたのもおそらくこの時であった。
ニューヨークで安ホテルを捜しあてたときに帳場に居たのっぽの番頭がやはりチューインガムを噛んでいた。そうして「イエース」というところを「イエーア」と云うのであった。
便所の扉がたけが低くて、中で用を足している人の顔こそ見えないが、非芸術的な二本の脚は廊下からちゃんとあけすけに見えているのであった。
飲食店などの入口にも同じような短い扉があって、人はそれを乱暴に肩で押しあげて出入りする。あとで扉はパタンパタンと数回の振動をしなければすぐには静止の位置に落着かないのであった。
電車の中でも人はチューインガムを噛んでいた。そうして電車の床の上へ平気で唾を吐いていた。ヨーロッパでは見たことのない現象である。
ワシントンで生れて始めての「|暑さの波《ヒートウエーヴ》」に襲われた。これについては前に書いたことがあるから略する。ワシン
前へ
次へ
全11ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング