チューインガム
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)遊弋《ゆうよく》していた

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)去年の夏|築地《つきじ》小劇場の

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(例)[#地から1字上げ](昭和七年八月『文学』)
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 銀座を歩いていたら、派手な洋装をした若い女が二人、ハイヒールの足並を揃えて遊弋《ゆうよく》していた。そうして二人とも美しい顔をゆがめてチューインガムをニチャニチャ噛みながら白昼の都大路を闊歩《かっぽ》しているのであった。
 去年の夏|築地《つきじ》小劇場のプロ芝居を見物に行ったときには、四十恰好のおばさんが引っ切りなしにチューインガムを噛んでいるのを発見して不思議な感じがしたのであった。
 二十年前に大西洋を渡ってニューヨークへ着きホボケンの税関の検閲を受けたときに、自分のカバンを底の底までひっくり返した税関吏が、やはりこのチューインガムを噛んでいた。これが自分のチューインガムというものに出会った最初の機会であった。勿論その時はチューインガムという名前も知らず、この税関吏
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