もまだつめたい泥《どろ》の底に真夏の雲の影を待っている。温室の中からガタガタと下駄《げた》の音を立てて、田舎《いなか》のばあさんたちが四五人、きつねにつままれたような顔をして出て来る。余らはこれと入れちがってはいる。活力の満ちた、しめっぽい熱帯の空気が鼻のあなから脳を襲う。椰子《やし》の木や琉球《りゅうきゅう》の芭蕉《ばしょう》などが、今少し延びたら、この屋根をどうするつもりだろうといつも思うのであるが、きょうもそう思う。ハワイという国には肺病が皆無だとだれかの言った事を思い出す。妻は濃緑に朱の斑点《はんてん》のはいった草の葉をいじっているから「オイよせ、毒かもしれない」と言ったら、あわてて放して、いやな顔をして指先を見つめてちょっとかいでみる。左右の回廊にはところどころ赤い花が咲いて、その中からのんきそうな人の顔もあちこちに見える。妻はなんだか気分が悪くなったと言う。顔色はたいして悪くもない。急になま暖かい所へはいったためだろう。早く外へ出たほうがよい、おれはも少し見て行くからと言ったら、ちょっとためらったが、おとなしく出て行った。あかい花だけ見てすぐ出るつもりでいたら、人と人との間
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