どんぐり
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)下谷摩利支天《したやまりしてん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|間《けん》ばかり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ほんとう[#「ほんとう」に傍点]の

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)こいも/\/\/\/\
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 もう何年前になるか思い出せぬが日は覚えている。暮れもおし詰まった二十六日の晩、妻は下女を連れて下谷摩利支天《したやまりしてん》の縁日へ出かけた。十時過ぎに帰って来て、袂《たもと》からおみやげの金鍔《きんつば》と焼き栗《ぐり》を出して余のノートを読んでいる机のすみへそっとのせて、便所へはいったがやがて出て来て青い顔をして机のそばへすわると同時に急に咳《せき》をして血を吐いた。驚いたのは当人ばかりではない、その時余の顔に全く血のけがなくなったのを見て、いっそう気を落としたとこれはあとで話した。
 あくる日下女が薬取りから帰ると急に暇をくれと言い出した。このへんは物騒で、お使いに出るときっといやないた
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