へはさまって、ちょっと出そこなって、やっと出て見ると妻はそこにはいぬ。どこへ行ったかと見回すと、はるか向こうの東屋《あずまや》のベンチへ力なさそうにもたれたまま、こっちを見て笑っていた。
園の静けさは前に変わらぬ。日光の目に見えぬ力で地上のすべての活動をそっとおさえつけてあるように見える。気分はすっかりよくなったと言うから、もうそろそろ帰ろうかと言うと、少し驚いたように余の顔を見つめていたが、せっかく来たから、もう少し、池のほうへでも行ってみましょうと言う。それもそうだとそっちへ向く。
崖《がけ》をおりかかると下から大学生が二三人、黄色い声でアリストートルがどうしたとかいうような事を議論しながら上って来る。池の小島の東屋に、三十ぐらいのめがねをかけた品のいい細君が、海軍服の男の子と小さい女の子を遊ばせている。海軍服は小石を拾っては氷の上をすべらせて快い音を立てている。ベンチの上にはしわくちゃの半紙が広げられて、その上にカステラの大きな切れがのっている。「あんな女の子がほしいわねえ」と妻がいつにない事を言う。
出口のほうへと崖の下をあるく。なんの見るものもない。後ろで妻が「おや、ど
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