になっているような気がする。遠来の客へのコンプリメントででもあるかのように。
とんぼやからすが飛行中に機関の故障を起こして墜落するという話は聞かない。飛行機は故障を起こしやすいようにできているから、それで故障を起こすし、鳥や虫は決して故障の起こらぬようにできているから故障が起こらなくても何も不思議はないわけである。むしろ、いちばん不思議なことは落ちるときに上のほうへ落ちないで必ず下に落ちることである。物理学者に聞けば、それは地球の引力によるという。もっと詳しく聞くと、すぐに数式を持ち出して説明する。そんならその引力はどうして起こるかと聞くと事がらはいっそうむつかしくなって結局到底満足な返答は得られない。実は学者にもわからないのである。
われわれが存在の光栄を有する二十世紀の前半は、事によると、あらゆる時代のうちで人間がいちばん思い上がってわれわれの主人であり父母であるところの天然というものをばかにしているつもりで、ほんとうは最も多く天然にばかにされている時代かもしれないと思われる。科学がほんの少しばかり成長してちょうど生意気盛りの年ごろになっているものと思われる。天然の玄関をちらと
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