か。遙かな未来の夢想を信じて『奴隷の勉強』をも、『乞食の名誉』をも甘受するか。」
 もちろん私はどこまでも、自分を欺きとおして暮らしていけるという自信はない。そのくらいなら、これほど苦しまないでも、とうにどこかに落ちつき場所を見出しているに相違ない。では後者を選ぶか? 私はどのくらい、それに憧憬をもっているかしれない。本当に、すぐにも、何もかもすてて、そこに駆けてゆきたいのだ。けれど、そこに行くには、私の今までの生活をみんな棄てなければならない。苦しみあがきながら築きあげたものを、この、自分の手で叩きこわさねばならない。今日までの私の生活は、何の意味も成さないことになりはしないか? それではあんまり情なさすぎる。しかし、今日までの私の卑怯は、みんなその未練からではないか。本当の自分の道が展かれて生きるためになら、何が欲しかろう? 何が惜しかろう? 何物にも執着はもつまい。もたれまい。ああ、だが――もし本当にこう決心しなければならない時が来たら――私はどんなことがあっても、辛い目や苦しい思いをしないようにとは思わないけれど、それにしても、今の私にはあまりにつらすぎる。苦しすぎる。せめて子
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