転機
伊藤野枝
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「けげん」に傍点]
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一
不案内な道を教えられるままに歩いて古河の町外れまで来ると、通りは思いがけなく、まだ新らしい高い堤防で遮られている道ばたで、子供を遊ばせている老婆に私はまた尋ねた。老婆はけげん[#「けげん」に傍点]な顔をして私達二人の容姿に目を留めながら、念を押すように、今私のいった谷中村という行く先きを聞き返しておいて、
「何んでも、その堤防を越して、河を渡ってゆくんだとかいいますけれどねえ。私もよくは知りませんから。」
何んだか、はっきりしない答えに、当惑している私達が気の毒になったのか、老婆は自分で他の人にも聞いてくれたが、やはり答えは同じだった。しかし、とに角その堤防を越して行くのだということだけは分ったので、私達はその町の人家の屋根よりは遙かに高いくらいな堤防に上がった。
やっと、のぼった私達の前に展かれた景色は、何という思いがけないものだったろう! 今、私達が立っている堤防は黄褐色の単調な色をもって、右へ左へと
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