遠く延びていって、遂には何処まで延びているのか見定めもつかない。しかも堤防外のすべてのものは、それによって遮りつくされてただようように一二ケ所ずつ木の茂みが、低く暗緑の頭を出しているばかりである。堤防の内は一面に黄色な枯れ葦に領された広大な窪地であった。私達の正面は五六町を隔てた処に横たわっている古い堤防に遮られているが、右手の方に拡がったその窪地の面積は、数理的観念には極めて遠い私の頭では、ちょっとどのくらいというような見当はつかないけれど、何しろそれは驚くべき広大な地域を占めていた。こうして高い堤防の上に立つと、広い眼界がただもう一面に黄色なその窪地と空だけでいっぱいになっている。
 その思いがけない景色を前にして、私はこれが長い間――本当にそれは長い間だった――一度聞いてからは、ついに忘れることの出来なかった村の跡なのだろうと思った。窪地といってもこの新しい堤防さえのぞいてしまえば、この堤防の外の土地とは何の高低もない普通の平地だということや、窪地の中を真っすぐに一と筋向うの土手まで続いている広い路も、この堤防で遮られた、先刻の町の通りに続いていたものだということを考えあわせて見
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