勉強をもって働き、乞食の名誉をもって死ぬかもしれない」仕事に従事する人達の真に高価な「生き甲斐」というようなものが本当に解るような気がした。
 それでも、私はまだできるだけ不精をしようとしていた。それには、一緒にいるTの影響も大分あった。彼は、ずっと前から山岡達の仕事に対しては理解も興味も持っていた。しかし、彼はいつもの彼の行き方どおりに、その人達に近よって交渉をもつことは嫌だったのだ。交渉をもつことが嫌だというよりは、彼は山岡達のサークルの人達が、どんなにひどい迫害を受けているかをよく知っていたので、その交渉に続いて起こる損害を受けるのが馬鹿らしかったのだ。それ故私もまた、それ程の損害を受けないでも、自分には、手近かな「婦人解放」という他の仕事があるのだ、「婦人解放」といった処で、これも間違いのない「奴隷解放」の仕事なのだから意味は一つなのだなどと、勝手な考えで遠くから山岡達の仕事を、やはり注意ぶかくは見ていた。

 思いがけなく、今日まで避けてきたことを、今、事実によって、考えの上だけでも極めなければならなくなったのだ。
「曲りなりにも、とにかく眼前の自分の生活の安穏のために努める
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