て見たいと思うのだった。自分のもっているだけの情熱も力もそこならばいっぱいに傾け尽くせそうに思われた。
 私は、自分の現在の生活に対する反抗心が炎え上がると、そういう特殊な仕事の中に、本当に強く生きて動く自分を夢想するのだった。
 しかし、その夢想と眼前の事実の間には、文字通りの隔りがあった。私はやはり夢想を実現させようとする努力よりも、一日々々の事に逐われていなければならなかった。けれどそれは決してそうして放って置いてもいいことではなかった。必ずどっちかに片をつけなければならないことなのだった。
 私に、特にそうした、はっきりした根のある夢想を持たせるように導いたのは、山岡が二三年前に創めた「K」雑誌であった。私は何にも知らずに、そのうすっぺらな創刊号を手にしたのであった。私の興味は一度に吸い寄せられた。号を逐って読んでいるうちに、だんだんに雑誌に書かれるものに対する興味は、その人達の持つ思想や主張に対する深い注意に代っていった。そのうちに私の前に、もっと私を感激させるものが置かれた。それは、エンマ・ゴオルドマンの、特に、彼女の伝記であった。私はそれによって始めて、伝道という「奴隷の
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