しい方に導こうと努力しているのだということに僅かに自分を慰めて、自分の小さな生活を保ってきた。しかし、第一に私は手近かな、家庭というもののために、不愉快な「忍従」のしつづけであった。種々な場合に、そんな時には何の価値もない些細な家の中の平和のために、そして自分がその家庭の侵入者であるがために、自分の正しい行為やいい分を、遠慮しなければならないことが多かった。その小さな一つ一つが、やがて全生活をうずめてしまう油断のならない一つ一つであることを知りながらでも、その妥協と譲歩はしなければならなかったのだ。そして、それが嵩じてくると、何もかも呪わしく、馬鹿らしく、焦立たしくなるのだった。
「こんなにも苦しんで、私は一体何をしているのだろう。余計な遠慮や気がねをしなければならないような狭い処で、折々思い出したように自分の気持を引ったててみるくらいのことしかできないなんて――」
 同じ事ならこんな誤謬にみちた生活にこびりついていなくたって、いっそもう、何も彼も投げすてて広い自由のための戦いの中に、飛び込んでゆきたいと思うのだった。そのムーブメントの中に飛び込んで行って、力一杯に手ごたえのある事をし
前へ 次へ
全69ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング