して立派に新らしい谷中村を建てればいいんだ。その意気地もなしに、本当に死ぬ決心ができるものか。お前はあんまりセンティメンタルに考え過ぎているのだよ。明日になって考えてごらん、きっと今自分で考えていることが馬鹿々々しくなるから。」
 けれど、この言葉は、私にはあまりに酷な言葉だった。
 私がいま、できるだけ正直で善良で可愛想な人達として考えている人々の間に、そんな卑劣なことが考えられているのだというようなことを、どうして思えよう!
 だが私はまた、「その善良な人達が何でそんなことを考えるものですか」とすぐに押し返していう程にも、そのことを否定してしまうことはできなかった。
 けれど、なお私は争った。
 この可愛想な人達の「死ぬ」という決心が、よしTのいうように面当てであろうと、脅かしであろうと、どうして私はそれを咎めよう。もしそれが本当に卑劣な心からであっても、そんなに卑劣には何がしたのだろう?
 自分の力でたつ事が出来ないものは、亡びてしまうより他に仕方がない。そうして自から、その自分を死地に堕す処に思いきり悪く居残っているものが亡びるのは当然のことだ。それに誰が異議をいおう。だのに、
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