なに正直でもなんでも、自分で自分を死地におとしていながらどこまでも他人の同情にすがることを考えているようなものは卑劣だよ。僕はそんなものに向って同情する気にはとてもなれない。」
 私は黙った。しかし頭の中では一時にいいたいことがいっぱいになった。いろいろTのいったことに対しての理屈が後から後からと湧き上がってきた。Tはなお続けていった。
「お前はまださっきのMさんの興奮に引っぱり込まれたままでいる。だから本当に冷静に考えることができないのだよ。明日になってもう一ど考えてごらん。きっと、もっと別の考え方ができるに違いない。お前が今考えているように、みんながいくら決心したからといって、決して死んでしまうようなことはないよ。そういうことがあるものか。よしみんなが溺れようとしたって、きっと救い出されるよ。そして結局は無事にどこかへ、おさまってしまうんだ。本当に死ぬ決心なら相談になんぞ来るものか。今いっている決心というのは、こうなってもかまってくれないかという面当てなんだ、脅かしなんだ。なんで本気に死ぬ気でなんかいるもんか。もし、そうまで谷中という村を建て直したいのなら、どこか他のいい土地をさが
前へ 次へ
全69ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング