、意気地がないからそういう目に遇うんだと思えば間違いはない。いつでも愚痴をいってる奴にかぎって弱いのと同じだ。自分がしっかりしていて、不当なものだと思えばどんどん拒みさえすればそれでいいんだ。世の中のいろんなことが正しいとか正しくないとかそんなことがとても一々考えられるものじゃない。要するに、みんなが各々に自覚をしさえすればいいんだ。今日の話の谷中の人達だって、もう家を毀されたときから、とても自分達の力で叶わないことは知れ切っているんじゃないか。少しばかりの人数でいくら頑張ったってどうなるものか。そんな解り切ったことにいつまでも取りついているのは愚だよ。いわば自分自身であがきのとれない深みにはいったようなもんじゃないか。」
「そんなことが解れば苦労はしませんよ。それが解る人は買収に応じてとうに、もっと上手な世渡りを考えて村を出ています。何もしらないから苦しむんです。一番正直な人が一番最後まで苦しむことになっているのでしょう? それを考えると、私は何よりも可愛想で仕方がないんです。」
「可愛想は可愛想でも、そんなのは何にも解らない馬鹿なんだ。自分で生きてゆくことのできない人間なんだ。どん
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