ずるのであった。
「Sという人は、K氏やH氏の処に、そのことで何か相談に来たんですか。」
 今まで黙っていたTが突然に口を出した。
「ええ、まあそうなんです。しかし、村民もいまさら他からの救いをあてにしてるわけではないので、相談というのも、ほんの知らせかたがたの話に来たくらいのものなんですけれど、どうも話を聞いて見ると実に惨めなもんです。実際どうにかなるもんなら――」
 M氏はそういって、どうにも手出しの出来ない事をもう一度述べてから、K氏のろくに相手にもならない心持は、多分、今当局に、他からいくら村民達の決心を呑み込ませようとしても無駄だから、やはりどこまでも、本人達によって示されなければ、手応えはあるまいということ、そうした場合になれば、ひとりでに世間の問題にもなるだろうという考えだろうと説明した。
「僕もそう思いますね。実際もう何とも仕方のない場合になってきているのですからねえ。」
 Tは冷淡な調子で、もうそんな話は片付けようとするようにいった。

        四

 けれど、私はそれなりで話を打ち切ってしまうには、あまりにその話に興奮させられていた。私はできるだけ、その可愛
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